シリーズ 人生に役立つ二宮金次郎の教え(その17)

二宮金次郎と夏目漱石、二人が見た「誠の道」

「誠実」とは、日本人が昔から大切にしてきた精神です。二宮金次郎は、「誠の道」こそが、この世に生まれ生きるのに、なにより大切なものだと説きました。誠とは、一般的に「うそ・偽りがない」「表裏の無い心」のこととされています。

【参考】儒教の四書の一つ、『中庸』には「誠は天の道なり、これを誠にするは人の道なり」とあります。「誠」であろうと努めることが、人間としての務めだと言っています。二宮金次郎はこの『中庸』をよく読んでいました。

「誠の道」は重要ですが、人によっていろいろな捉え方もあるし、その真面目さから堅苦しく思ってしまうかもしれません。昔の日本人も同じように、「誠の道」に息苦しさや、時には矛盾を感じる方がいたようです。明治の文豪・夏目漱石の小説『それから』には、社会(家族)が求める「誠の道」と個人(主人公)が考える「誠の道」の矛盾や衝突が描かれています。

『それから』のあらすじは、高等遊民として親の援助を受けながら暮らしていた主人公が、親友の奥さんと不倫をし、実家から勘当・友人から絶交され、仕事を探すためあてもなく家を飛び出る話です。
これだけ見ると、社会を知らず、安易に不倫に手を出し、すべてを失った失敗話です。しかし、主人公には「純愛」という、うそ・偽りもなければ表裏もない、主人公なりの「誠の道」がありました。いまある暮らしや家族を捨てて友人の奥さんを選びました。しかし、結果は厳しいものでした。

おぜき重太郎

二宮金次郎なら、どうみるでしょうか? 主人公のやっていることは私利私欲だから「誠の道」ではないと一蹴でしょうか?社会の「誠の道」こそが優先されると教え諭すでしょうか?この辺りの判断を誤り、失敗する人が後を絶たない気がします。自分が思った「誠の道」が周りからみて身勝手ではないか、社会が求める「誠の道」から外れていないか、考えさせられる小説でした。皆さまも、一度読んでみてはいかがでしょうか。

(町声レポート2025年2月号より 執筆者:おぜき重太郎)